意外と知らない?民事執行法改正について
2020年4月,いくつかの重要な法改正が施行されました。
まず,民法について,債権法の分野で大きな改正がありました。債務不履行や解除,瑕疵担保責任や民事法定利率など,債権法の中心的な条文が改正され,これに伴って契約の見直しなどをされた方も多かったのではないでしょうか。
また,当事務所の中心的な業務の1つ,学校法務の分野では,私立学校法の改正がありました。今回の改正では,理事の善管注意義務が明定され,株式会社の取締役や一般社団法人の理事と同様に競業避止義務や利益相反取引に関する規定が設けられるとともに,責任限定契約に関する規定が設けられるなど,極めて重要な改正が施行されました。各学校とも,この改正に応じた寄付行為の改訂に追われたことと思います(私立学校法改正につきましては,セミナーを実施して皆様に改正内容を紹介する予定でしたが,新型コロナウイルス感染防止のため,セミナーは延期し,出席をお申込みいただいた皆様や顧問の皆様には,改正を解説する動画を送らせていただきました。)。
そして,あまり知られてはいませんが,民事執行法の改正もありました。
民事執行法は,強制執行や担保権の実行などについて定めた法律で,債権者の債務者に対する権利を実現するうえで,極めて重要な法律です。この法律が,令和元年5月10日,「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」(令和元年法律第2号)(同月17日公布 )により一部改正され,2020年4月施行されました。この改正では,民事執行制度をめぐる最近の情勢に鑑み,1債務者の財産状況の調査に関する制度の充実,2不動産競売における暴力団員の買受防止,3国内の子の引渡し及び国際的な子の返還の強制執行に関する規律の明確化等が図られています。
このうち2は公共事業や企業活動等からの暴力団排除の取り組みの一環です。暴力団事務所の物件の多くが,不動産競売手続を通じて確保されていることも,この改正のきっかけになっています。
また,3の子の引渡しの強制執行に関しては,これまで明文の規定はないものの,動産に関する規定(これがなんとも違和感のあるところです)を類推適用するなどして実施されてきましたが,子の利益に配慮する観点から規定の明確化の必要が生じ,また,ハーグ条約の趣旨も踏まえて改正が行われました。
そして,1ですが,これは今後大いに活用できる可能性があります。
わが国では自力救済は禁止されており,債権者は勝訴判決を得た場合であっても,債務者側が自発的に弁済や明渡しをしない限り債権の満足を得ることはできず,これを得るためには強制執行に行うしかありません。そして,強制執行の場面では(明渡し事例はともかく,債権回収の事案では),債権者は債務者の財産を差し押さえて債権の満足を図るのですが,債務者の財産状況を債権者が把握することはなかなか困難で,裁判には勝ったのに債権の回収ができないというジレンマが生じます。
このジレンマを解消する手段として,民事執行法は平成15年の改正で,債務者の財産状況の調査制度として「財産
開示制度」を創設し,債務者の財産に関する情報を債務者自身の陳述によって取得し,債権者に債務者の財産状況を把握させようとしました。しかしながら,この制度には債務者側に手続違背があった場合の罰則はあるもののそれほど重くはなく,あまり実効性がなかったせいか,年間の利用件数は1000件前後と低調でした。そこで,今般の改正では,新たに,債務者以外の第三者からの情報取得手続を新設し,また財産開示手続違背の罰則に懲役刑を加え,あるいは申立資格を拡大(仮執行宣言付きの判決や支払い督促,執行証書(強制執行認諾文言が付いた公正証書)を有する者も申立可能)して,制度の充実を図りました。
特に今回新設された第三者からの情報取得手続では,1金融機関等から預貯金債権や上場株式,国債などに関する情報を取得(新民事執行法207条),2市町村,日本年金機構から給与債権(勤務先)に関する情報を取得(但し2については特に厳しい要件が課されている(後述))(新民事執行法206条),3登記所から土地建物に関する情報を取得(新民事執行法205条)することが可能となりました。もっとも,2と3については,事前に財産開示制度を利用することが必要とされており,また,2はセンシティブな情報が対象となっていますから,申立権者は養育費等の債権や生命・身体の侵害による損害賠償請求権に関する債権者に限定されます。
債務者の財産に関する情報については,これまで,弁護士法23条の2に基づくいわゆる弁護士照会制度による情報取得が行われてきましたが,今回は民事執行法の中に情報取得に関する制度が設けられ,この改正は画期的なものといえます。制度の使い勝手も含め,これから吟味すべき事項もたくさんありますが,これらの手段をうまく利用することができれば,裁判によって得られる利益をより確実なものにすることができます。
なお,債務者の財産状況があらかじめ把握できている場合には,仮差押えや仮処分といった民事保全手続を取ることができ,権利実現はより確実なものとなりますが,民事保全手続は債務者が財産の散逸を図る前にこれを仮に抑えようという手続ですから,事件によっては一刻を争うということもあります。これは,当事務所が得意とするところです。ぜひ,何なりとご相談ください。
(文責 弁護士 佐野知子)