1 はじめに
文部科学省は,平成30年3月27日付通知文において,各学校法人に対し,障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」といいます。)の一部を改正する法律の施行により,平成30年4月から精神障害者の雇用が義務化され,障害者雇用率等の算定基礎に加わることに伴い,同年4月から,学校法人を含む民間企業の法定雇用率が2.2%となった旨通知しております。
本コラムでは,今後,学校法人が障害者雇用促進法に対応するにあたって留意すべき点として,学校法務における障害者雇用促進法の概要について,ご説明したいと思います。
2 障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は,昭和35年7月25日に障害者の職業の安定を図ることを目的として制定された法律です。その理念は,障害者がその能力に適合する職業に就くことを可能にし,職業生活における自立及び職業の安定を実現しようとすることにあります。
障害者雇用促進法の内容は,
①雇用義務制度,
②職業リハビリテーションの促進,
③差別禁止と合理的配慮の提供義務
の大きく3本の柱で構成されています。特に,学校法人との関係では,①雇用義務制度及び③差別禁止と合理的配慮の提供義務が重要です。
⑴ ①雇用義務制度
まず,障害者雇用促進法では,雇用義務制度として,事業主に対し,障害者雇用率に相当する人数の障害者の雇用を義務づけたり,納付金等によって障害者の雇用に伴う事業主の経済的負担の調整を図ったりする制度を設けています。
雇用義務制度は,「障害者雇用率制度」と「障害者雇用納付金制度」の2つの制度によって構成されます。
ア 障害者雇用率制度
まず,障害者雇用率制度では,民間企業,国や地方公共団体などの事業主に対し,雇用する労働者に占める障害のある人の割合が一定の率(=法定雇用率)以上になるよう義務づけられます。現在の法定雇用率は2.2%ですが,令和3年3月31日が経過するまでに2.3%に引き上げられる予定です。
厚生労働省が作成した「平成30年 障害雇用状況の集計結果」によりますと,平成30年6月1日時点で,対象企業全体では,障害者の実雇用率が7年連続で過去最高の2.05%,法定雇用率達成企業の割合が45.9%となったものの,教育・学習支援業の分野では,実雇用率が1.63%,法定雇用率達成企業の割合が35.2%であり,企業全体と比較するとまだまだ低いのが現状です。
イ 障害者雇用納付金制度
本制度では,障害者の雇用に伴う経済的負担を調整するとともに,障害者を雇用す
る事業主に対する助成・援助を行うため,事業主の共同拠出による納付金制度を整備されています。
障害者を雇用するためには,設備の改善や職場環境の整備などが必要とされることが多く,経済的負担を伴うところ,雇用義務を履行している事業主とそうでない事業主では経済的負担のアンバランスが生じてしまいます。
そこで,本制度では,社会連帯の理念に基づき,法定雇用率を達成できない事業主から納付金を徴収し,それを原資として,法定雇用率を超えて障害者を雇用する事業主に対して調整金または報奨金等を支給することとしました。
具体的には,用労働者の100人超えの企業のうち,法定雇用率を達成していない企業は,不足一人当たり月5万円の納付金を徴収されることになります。他方で,法定雇用率を達成した企業は,超過一人当たり月2万7000円の調整金や報奨金が支給されます。
⑵ ③差別禁止と合理的配慮の提供義務
差別禁止と合理的配慮の提供義務として,障害者が能力を有効に発揮できるようにするために,障害者と非障害者の平等を実現することを目指しています。それぞれの具体的な適用例は,厚生労働省による「障害者差別指針」及び「合理的配慮指針」並びに「障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A」に記載がありますので,参考になるかと思います。
ア 差別禁止
差別禁止は,募集・採用,賃金,配置,昇進,教育訓練などの雇用に関するあらゆる局面で,障害者であることを理由とする差別を禁止するものです。つまり,障害者と非障害者との間で合理的な理由がないのに異なる取り扱いをすることです。
イ 合理的配慮の提供義務
合理的配慮の提供義務は,障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保,障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため の必要な措置を提供しなればならないとするものです。合理的配慮では,障害者と非障害者とで異なることを前提として,事業者にとって過重な負担にならない範囲で両者の不平等を改善するための措置を講じたかどうかがポイントとなります。
3 おわりに
以上の通り,学校法務における障害者雇用促進法を概観しました。特に,合理的配慮は,個々の障害者の障害の状態や職場の状況に応じて提供されるものでとして個別性が高いものであるため,お困りの際にはぜひ個別に当法律事務所にご相談いただければと思います。経験、ノウハウを持った弁護士が複数在籍しております。
以上
(文責 弁護士 黒澤昌輝)