リファラル採用について
1.リファラル採用とは?
近年の人手不足による採用難を受けて,リファラル採用という採用方法が注目を集めています。
リファラル採用とは,自社で働く従業員から友人や知人を紹介してもらうことで応募者を募り,面接等の採用試験を経て企業が当該人物を採用する採用方法を指します。
リファラル採用には,通常の縁故採用と同じように会社に合った人材を見つけることができるという効果だけではなく,採用活動の効率化や従業員と会社の一体感を強めるといった効果も期待されています。
2.法的な規制
リファラル採用では紹介者である社員に対してインセンティブとして報酬を与える設計がされているケースがあります。このような場合,職業安定法40条による以下の規制があることに注意が必要です。
(報酬の供与の禁止) 第四十条 労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第三十六条第二項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。
この条文は,労働者の募集に際して紹介を行う業者等が報酬を得ることで,賃金の中間搾取を行ったり,劣悪な労働環境に誘導したりすることによって労働者の利益を害する結果が生じることを防止する趣旨であると考えられます。
職安法40条によると,労働者の募集を行うとき,被用者で労働者の募集に従事するものに対して「賃金,給料その他これらに準じるもの」であれば「報酬」を支払っても良い,ということになります。これは,会社の業務として募集活動をしている被用者には,その対価としてきちんと報酬が支払われるべきだという考え方です。
したがって,リファラル採用を導入して支払う「報酬」は「賃金,給料その他これらに準じるもの」であることが必要となります。
3.「報酬」にあたるか
前提として,被用者に付与するインセンティブが職安法40条の「報酬」にあたらなければ,職業安定法40条には抵触しません。では,「報酬」に当たる範囲はどのようなものでしょうか。例えば被用者に対して無形の利益(例えば,会社の運営するポイントカードサービスのポイントを付与することや,会社で使うデスクを大きいサイズに変更してあげること)を付与することは「報酬」にあたるのでしょうか。
この点について,制定時の職安法では,現行法の「報酬を与えてはならない」の部分が「財物または利益を與えてはならない」となっていました。そして,当時の労働省の官僚が書いた文献では,この「利益」について「有形無形のすべての利益をいう」(亀井光『職業安定法の詳解』野田経済研究所 133頁)と考えられていました。文言は変わっているものの,法の趣旨自体は変わらないものと考えれば,無形の利益の供与も「報酬」にあたることになりそうです。
4.「これらに準じるもの」
では,「これらに準じるもの」として正当化出来るのはどのような「報酬」でしょうか。この文言について,上記文献では「家族手當,或いは勤勉手當のようなものをいうのである。」と解しています(上掲・亀井133頁)。
ポイント等の無形の利益の付与についても「これらに準じるもの」にあたると考えることもできそうです。ただし,「これらに準じるもの」は賃金そのものではありませんが,賃金についての通貨払いの原則(労働基準法24条1項)に抵触するおそれがあり,個別の事案について詳しく伺って検討する必要があります。
5.制度設計のポイント
まずは,被用者が業務として募集活動を行っていることが必要になります。業務として行っていると言えない場合には,委託募集(職安法36条1項)になってしまい,厚生労働大臣の許可が必要になってしまいます。会社としては,就業規則に業務として募集活動を記載したり,募集活動を業務とする業務命令をするなどの対応が考えられます。
次に,就業規則や賃金規定に募集活動業務に従事した際の報酬について記載することが必要となります。報酬の支払い基準としては,「被用者が紹介した者が一人採用されること」への報酬というより,「被用者が紹介した者が一人応募すること」への報酬という設計の方が募集活動業務との対価性があると言えそうです。
以上のように,リファラル採用の制度設計については慎重な検討が必要となりますので,導入を検討されておられる方は,当事務所にお気軽にご相談下さい。
(文責 弁護士 金子周悟)