1 はじめに
2022年4月から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。法律的なところでいうと,民法4条が「年齢二十歳をもって、成年とする。」とされていましたが,これが「年齢十八歳をもって、成年とする。」という風に変わります。今般の民法改正に伴い,様々なところで法律の見直しがされていますが,実際に成年年齢の引き下げによって何が変わるのでしょうか。学校として何か留意すべき点はあるのでしょうか。簡単に見ていきたいと思います。
2 成年年齢の引き下げによって変わる点,変わらない点
(1)変わる点
ア 契約の締結等
成年年齢の引き下げによって変更される点は様々ですが,大きいのは,18歳になった時点で単独で有効に契約が締結できるようになる点です。
携帯電話の契約や,スマホゲームの課金,ローンを組むことや,クレジットカードを契約すること等が単独でできるようになります。
従前は,20歳未満の者が法定代理人の同意を得ずに締結した契約は,法定代理人等によって取消すことが可能でした(未成年者取消権)。しかし,成年年齢の引き下げに伴い,18歳に達した者が締結した契約を法定代理人等が事後的に取消すことができなくなりました。
その他,有効期間が10年のパスポートが作成できる,公認会計士等の国家資格に基づく職業に就くことが可能となる点も変わった点として挙げられます。
イ 女性の婚姻適齢,性別変更の申立
また,上記民法改正においては,女性の婚姻適齢も16歳から18歳に引き上げられています(民法731条)。他にも,性同一性障がい者による性別変更の申立て(性同一性障害特例法3条1項1号)も18歳で可能となっています。
(2)変わらない点
ア 飲酒・喫煙・競馬等
他方で,飲酒や喫煙,競馬等については,引き続き,20歳未満のものについて制限が設けられています。この点については,各学校で周知が必要な事項と考えます。
(3)やや特殊な扱い~少年法の「特定少年」~
18歳・19歳の少年は,引き続き,「特定少年」として少年法が適用され,17歳以下の者とは若干異なる取扱いがされています。例えば,「特定少年」が犯した事件について,起訴された場合(略式手続を除く)には,実名報道が解禁されるといった点が異なっています(改正後少年法68条)。成年年齢の引き下げに伴い,18歳以上の者を少年法の適用除
外とする選択肢もありましたが,今般の少年法改正では,18歳・19歳の特定少年について,成長途上にあり,更生が期待できる点に着目し,引き続き少年法を適用することとしています。
3 成年年齢に達した後の支援の必要性
成年年齢の引き下げに伴い,成年に達した直後のものが消費者被害にあう危険性が指摘されています。金融庁は,そのHPで(18歳、19歳のあなたに伝えたい!! ~成年年齢引下げを踏まえて~:金融庁 (fsa.go.jp))「浪費,遊興費,ギャンブルなどのために,軽い気持ちで高金利の借金はしない」などの注意を呼び掛けています。2022年4月1日になった時点で18歳に達した人たちが十分に吟味したうえで契約を締結できるかはケースバイケースであり,成年に達したばかりの者が契約を締結する際には周りの方々の支援が引き続き必要に思います。
4 教育現場における留意点~文科省の通達から~
成年年齢の引き下げに伴う学校の留意事項として文科省は「成年年齢に達した生徒に係る在学中の手続等に関する留意事項について(事務連絡)」を公表しています(成年年齢に達した生徒に係る在学中の手続等に関する留意事項について(事務連絡):文部科学省 (mext.go.jp))。
当該事務連絡では,成年年齢に達した生徒の退学等の手続や授業料その他の費用の徴収についての留意事項が掲載されています。例えば,成年年齢に達した生徒の退学等に係る手続について文科省は,「父母等の同意を要することなく単独で校長の許可を得ることが法改正により、可能となる場合がある」としたうえで「改正法施工後は、この場合において、成年年齢に達した生徒の退学等に係る手続においては,父母等が連署した書類の提出は不要である」と指摘するものの,成年年齢に達した生徒が未だ成長の過程にあり,引き続き支援が必要な存在であることを踏まえ「成年年齢に達した生徒の退学等に係る手続を行う際には、事前に学校、生徒及び父母等との間で話し合いの場を設けるなど、その父母等の理解を得ることが重要である」としています。
上記事務連絡は,父母等に丁寧な説明をし,理解を経たうえで手続を進めることが重要であるとの共通理解のもとで留意事項が記載されている印象であり,学校の実務的な対応は大きく変わらないものと推測されます。
5 結語
以上,簡単に成年年齢の引き下げについて見てきました。急ぎ対応が必要になる事項等は想定されず,改正法施行後の状況を踏まえ,都度対応を検討していくことになろうかという印象ですが,具体的な変化があるのか,引き続き注目していきたいと思っています。
(文責 弁護士 栗山明久)