1 はじめに
最近,街中でよく見かける電動キックボード。見たことはあるが,乗ったことはない,利用上のルールがよく分からないという人も多いのではないでしょうか。令和4年4月19日,そんな電動キックボードに関する法律,道路交通法の改正法案が,国会で可決され,成立しました。今後2年以内を目処に施行される見込みです。今回は,改正の要点や,改正が与える影響等を見ていきたいと思います。
2 電動キックボードとは
電動キックボードとは,車輪付の板であるキックボードに,原動機(電動式モーター)を装備したもので,近年,手軽な交通手段として利用されています。これまで,電動キックボード(定格出力0.6kW以下)は,道路交通法上「原動機付自転車」(以下,「原付」という。)に分類されており,運転するには自動車運転免許が必要である他,車道のみの走行が許されており,ヘルメットの着用等も義務付けられていました。
3 道路交通法の改正
事業者からは,電動キックボードの更なる普及に向け,現状の原付としての扱いは合理的でないとの声が上がっていました。令和4年4月19日に成立した改正道路交通法は,こういった声を踏まえ,原付に分類されることを前提とした従来の規制を緩和する内容となりました。
今回の改正により,一定の条件を満たした電動キックボードは,新設の区分である「特定小型原動機付自転車」(以下,「特定小型原付」という。)に分類されることとなります。主な改正点は以下のとおりです。
⑴特定小型原付
今回の改正により,新たに設けられた区分です。電動キックボードのうち「特定小型原付」に該当するのは,最高速度時速20km以下かつ長さ190cm×幅60cm内に収まる車体です。これを超えるものについては,従来どおり原付として扱われることとなります。
⑵自動車運転免許
従来,電動キックボードを運転するには運転免許が必要でしたが,今回の改正により,特定小型原付に該当する電動キックボードについては運転免許が不要となりました。ただし,運転できるのは16歳以上の者に限られます。
⑶ヘルメット
従来,運転時はヘルメットの着用が義務付けられていましたが,特定小型原付では努力義務となりました。
⑷走行場所
従来,車道のみの走行が可能でしたが,特定小型原付では,車道に加えて自転車専用通行帯や自転車道を走行することも可能となりました。また,最高速度が時速6キロメートル以下で,かつその速度を表示できる,といった一定条件を満たす場合には,(自転車通行可能な)歩道も走行できるようになりました。
4 改正の影響
上記の改正点から分かることは,特定小型原付に該当する電動キックボードは,これまでの原付としての位置づけから,自転車と同じような位置づけになるということです。これにより,電動キックボードの利便性はより一層高まり,さらに普及することが予想されます。
他方,規制緩和による事故の増加も懸念されるところです。電動キックボードは,車体の大きさや最高速度の点では自転車と類似していますが,人力を使わずに動く点は,自転車と決定的に異なります。
電動キックボードの利用マナーはこれまでにも問題視されており,報道でも度々電動キックボードを当事者とする交通事故が取り上げられています。改正道路交通法でも,特定小型原付は,交通反則通告制度(交通違反を反則行為とし,反則金の納付により処理する制度)や放置違反金の対象とされており,危険な違反行為を繰り返した場合には,講習の受講が義務付けられています。また,16歳未満の運転には罰則(懲役6月以下または10万円以下の罰金)が課せられることとなっています。
成立した改正道路交通法の施行に向け,特定小型原付に必要な保安装置や保険等,利用時の具体的な基準については,現在,各省庁でまさに議論されている段階です。現行の電動キックボードは,今後確立する新しい基準を満たさないものも多いと思われます。制度の過渡期にあるからこそ,特定小型原付として電動キックボードを利用する際は,まずは法令等の基準を満たした適切なメーカーの製品を選択することが重要です。また,運転の際には,走行が認められる場所を十分に確認の上,無理な運転は避けましょう。
なお,施行前においては,改正法に従えば特定小型原付に該当するものでも,なお原付として扱われますので,運転免許やヘルメットの着用等が必要となる点にご注意ください。
5 最後に
電動キックボードは,非常に便利な交通手段ですが,使い方によっては危険もあります。まだまだ新しい製品であり,法令をはじめ,利用上のルールに関する知識理解も進んでいないのが現状だと思います。
今回の道路交通法改正を受け,今後,新たな保安基準や政令等の整備が進むことが予想されます。各省庁や事業者等においては,ルールの周知と安全な製品の提供を徹底してもらいたいところですが,利用者の側も,今後の動向に注目しながら,法令遵守はもちろんのこと,マナーを守って利用しましょう。
(文責 弁護士 村田瑞貴)