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弁護士新居裕登が「教育のICT化における最近の動向」について投稿しました

2021年3月5日

教育のICT化における最近の動向
 

第1 はじめに

令和3年2月16日に行われた,萩生田光一文部科学大臣の定例記者会見において,GIGAスクール構想に関する質疑応答がありました。中でも,文科省大臣が生徒に与えられた端末の持帰り等の活用方法に関するチェックリストを,今年の3月末までに準備すると述べていたことが注目されます。他方で,端末管理等の具体的なガイドラインの策定時期については,現時点では予定されておらず,まずは各自治体独自の判断に委ね,実績の蓄積を図る方針のようです。

このような端末の持帰り問題もさることながら,教育のICT化は他にも多種多様な問題を内包したまま,急激に押し進められています。そこで,本稿では今一度,教育のICT化にかかるこれまでの施策とその最近の動向について概観してみたいと思います。

 
第2 「5か年計画」と「GIGAスクール構想」

文部科学省は,教育のICT化に向けた環境整備のため,2018年4月頃,「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」を策定しました。この計画では単年度1805億円の地方財政措置が講じられ,その具体的な施策として,

・「3クラスに1クラス分程度の学習者用コンピュータの整備」

・「授業を担任する教師1人1台の指導者用コンピュータの整備」

・「大型提示装置・実物投影機の100%整備(各普通教室1台,特別教室用として6台)」

・「超高速インターネット及び無線LANの100%整備」

・「統合型校務支援システムの100%整備」

・「ICT支援員を4校に1人配置」

といった水準が設けられ,5年のうちに実現することとされました。

さらにこの「5か年計画」に加えて,2019年末には新たに「GIGAスクール構想」が打ち出されました。「GIGAスクール構想」は,ICT教育の土台となる機器類等ハード面での整備の観点において,「5か年計画」をさらに推し進めた計画となります。その具体的な施策としては,

・「児童生徒に1人1台端末環境」

・「校内の高速大容量LAN環境」

の整備を柱としており,「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく」ICT教育への可能性を開くこととしています。

「GIGAスクール構想」は「5か年計画」と併行して実施され,当初は2023年度の達成を目途として計画されました。ところが,2020年4月,新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を受けて,同構想については2020年度内の達成へと大きく前倒しに進められることが緊急的に決定されました。おそらくその背景には,1人1台端末を早期に実現することによって,今回の緊急事態宣言及びそれに伴う得やむを得ない休業のような緊急時におけるリモート授業を可能とし,一斉休業等による学習の停滞を防ぐことにあったものと思われます。もっとも,第1に記載した文部科学大臣の記者会見では,端末の持帰り等の使用方法についてはガイドラインの策定を急がず,その活用方法については各自治体に委ねる旨の方針を述べたことからすれば,「GIGAスクール構想」の前倒しの当初の目的とされたはずのリモート教育については,今現在,そこまで緊急的必要事項とは考えられていないようです。

ともあれ,予期せぬ新型コロナウイルスの出現により,大きく達成スケジュールが早められた結果,2021年4月1日までに,「1人1台端末環境」及び「校内の高速大容量LAN環境」が達成される運びとなりました。しかし,これらの環境整備が実現されたとしても,それはあくまで教育ICT化の土台となる部分の課題が解決したに過ぎません。その他にも,端末の持帰りの是非といった端末の管理方法,各家庭におけるインターネット環境の格差問題,機器の保守・点検・更新といったハード面での課題や,生徒による端末の有効な活用方法,教育者側のICT化への適応,ICT教材の著作権,情報モラルといったソフト面の課題が明らかな課題として残されており,さらに今後様々な問題が顕在化してくることも明らかといえます。

 
第3 おわりに

1人1台端末環境の整備が実現し,教育ICT元年を迎えることになる2021年以降,急速に教育の情報化が推し進められ,教育現場もめまぐるしく変化していくことと思われます。現時点では十分な指針があるとはいえない状況であり,今後湧出してくる教育・倫理・法的な問題には,現場で臨機応変に対応していくほかありません。常に前線の動向にアンテナを張っておく必要があります。

 
(文責 弁護士 新居裕登)

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