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弁護士沖山延史が「私学教員の労働時間管理について」を投稿しました

2018年3月23日

「私学教員の労働時間管理について」

最近,学校の教員の働き方に対する注目が高まっており,日常的にニュースを目にするようになりました。そのほとんどは,教員の労働時間に関するものであり,長時間労働が常態化していることや,部活動の指導が過大な負担になっているなどといったものです。
そんな中,今年1月,公益社団法人私学経営研究会が「第3回私学教職員の勤務時間管理に関するアンケート調査報告書」(以下「報告書」といいます)を発表しました。私学における勤務実態の現状を把握する上で非常に興味深いデータです。
今回は,このデータのうち,「高校」部門にフォーカスして気になるところを拾って簡単に考察してみたいと思います。

1 出退勤管理の実態(報告書3頁「調査1 教職員の出勤の確認」「ア 専任教員」,報告書5頁「調査2 教職員の退勤の確認」「ア 専任教員」参照)
一般的な企業では,タイムカードやパソコンのログイン記録といった機械的方法による打刻が大半かと思われますが,学校の世界ではそれは極めて少数派であり,最も利用されている出退勤管理の方法は,「出勤簿」のようです。
出勤に関しては62.7%が出勤簿(出勤時間の記入なし)によっています。
他方,退勤については,出勤簿(退勤時間の記入なし)の利用が20.2%と,出勤時の利用に比べると約3分の1に減少していますが,その代わり,退勤を「確認しない」という回答が32.5%にのぼり,出勤時以上に管理意識が希薄であることが分かります。

2 時間外・休日勤務の実態(報告書7頁「調査3 専任教職員の残業の実態」「ア 専任教員」,報告書8頁「調査4 専任教職員の休日出勤の実態」「ア 専任教員」参照)
昨今のニュースでも取り沙汰されている時間外・休日勤務ですが,今回のアンケート結果にも色濃く反映されています。アンケートによると,時間外勤務については,実に76%(「不明」「ほとんどない」「残業にならない」を除く全て)が何らかの形で「ある」と回答し,休日勤務については,68.2%(「不明」「ほとんどない」「休日出勤にならない」を除く全て)が何らかの形で「ある」と回答しています。
しかし,その時間が具体的に何時間なのか,という形での質問設定はなく,時間外・休日勤務の正確なボリュームまでは把握できません。仮に,質問設定があったとしても,前記1で述べた通り,出退勤の管理が不十分であるため,学校側が正確に時間外・休日勤務の時間を把握していない可能性が高いと考えられます。

3 時間外・休日勤務手当の実態(報告書23頁「調査12 専任教職員の時間外手当の有無」「ア 専任教員」,報告書26「調査13 専任教職員の休日出勤手当の有無」「ア 専任教員」参照)
では,時間外・休日勤務手当の支払いはどのように行われているでしょうか。
時間外勤務手当のデータをみると,いわゆる調整給のみ支払っている学校,定額の業務手当を支払っている学校,その両方を支払っている学校が合わせて70%にのぼります。いずれも定額制ですので,実際の時間外勤務の時間数とは連動していないものと思われます。つまり,前記2で述べた通り,時間外勤務の時間数を把握していないという学校の実態に整合する結果になっていることが分かります。
休日勤務手当についても,定額制で支払うか,原則振休・代休で対応し,これができなかった場合に定額制の手当で対応するという回答が61.2%にのぼり,時間外勤務と本質的な差異はないようです。
このように,時間外・休日勤務手当に関しては,時間外・休日勤務の時間を把握していない関係で,定額制での支払が主流となっております。定額制での支払(いわゆるみなし残業代)の場合,その額を超えた時間分の時間外・休日勤務が発生した場合には,その分の時間外・休日勤務手当を支払わなければなりません。このような取り扱いをしていない場合,労基法37条違反となり,罰則の対象となるほか,付加金の支払義務が課せられる可能性があります(労基法114条)。

4 部活動(報告書47頁「調査20 部活顧問・指導(平日時間外)」,報告書50「調査21 部活顧問・指導(休日指導・引率)」参照)
部活動の給与支給上の扱いはどうなっているでしょうか。
アンケートは平日時間外の部活と休日の部活に分けられており,前者については,法定の時間外勤務手当はもちろん,定額の手当すら支払わないという回答が最も多く,全体の45.8%を占めています。次に多いのが定額の手当の支払いで,31.9%となっています。通常校務による時間外・休日勤務を想定した前記3との決定的な違いは,「定額の手当すら支払わない」という回答が最も多いという点です。その根拠について,アンケート結果から推認することは困難ですが,おそらく,「部活」というのは「ボランティア」的な側面を有しているという考え方が教育現場で根強く残っているということに起因するものと推測します。
他方,休日の部活については,これと異なっており,定額の手当を払うか,振休・代休で対応できなかった場合に定額の手当を払うという対応が63.3%となっています。平日時間外の部活と異なり,休日が潰れることに関しては,何らかの手当が必要であると考えている学校が多いということでしょう。それでも,「定額制」ですので,正確な拘束時間までは把握されていないのが実情といえます。
なお,部活動についても,所定勤務時間外に行われるものは時間外・休日勤務となり,前記3と同様の問題が生じることに注意が必要です。

5 36協定の実態(報告書15頁「調査8 三六協定の有無」「ア 専任教員」参照)
では,時間外勤務・休日勤務を命じる根拠となる36協定の締結実態はどうでしょうか。
アンケートによると,時間外勤務・休日勤務いずれについても36協定を締結していると回答したのは全体の52%に留まっており,前記2で示した時間外勤務・休日勤務の実態から考えると,「少ない」という印象を受けます。さらに,回答数として次に多いのが「締結する予定はない」というもので,全体の28.7%にのぼります。その真意については,アンケートの結果から推認することは困難ですが,残業が存在する以上36協定の締結は不可欠です。労基法36条違反は罰則の対象になるので,早急に整備することが望まれるところです。

6 時間外・休日勤務対策(報告書9頁「調査5 専任教職員の残業・休日出勤対策」「ア 専任教員」参照)
上記のような時間外・休日勤務の実態に対し,学校はどのような対策を取っているでしょうか。
アンケートによると,個別的な対応方法としては休日勤務については振替対応(47.7%),時間外勤務については許可制導入(13.9%)といった対策が取られているようです。他方,これらと並行して取り得る手段として,変形労働時間制の採用という項目がありますが,比率としては28.4%と,全体の3割に満たない結果となっております。
変形労働時間制は,一定の変形期間中の総労働時間が平均して週40時間以内となっていれば,その期間中の特定の日の労働時間が8時間以上となったり,特定の週の労働時間が40時間を超えたりしても,労基法違反とはならない,という制度です。学校のように,1年を通じて業務の繁閑にパターンがある業態では,所定勤務時間を効率的に配分することで可及的に時間外勤務・休日勤務の発生を抑えることができ,便利な制度です。一度検討してみる価値はあると思います。

7 その他~非常勤講師の給与(報告書31頁「調査15 非常勤講師の,担当コマ以外の業務(採点,授業準備等)に対する手当の有無」参照)
非常勤講師が持ちコマでの業務以外の業務(採点,作問,生徒対応等)を行った際の賃金については,「支給しない」と回答した学校が57.1%にのぼります。
しかし,最近,学習塾運営会社に対して,講師による持ちコマの業務以外の業務(授業の予習,生徒の出欠確認,報告書作成等)に対する賃金を払うよう労働基準監督署から是正勧告がなされたというニュースもありました。
この考え方は,学校における非常勤講師にも等しく妥当するものと思われ,今後は非常勤講師の給与体系に対しても労基署のメスが入る可能性が極めて高いと考えられます。

7 雑感
今回のアンケートは,学校における勤務時間管理の実態を非常にわかりやすく浮き彫りにしたものと感じます。
ここ数年で,学校に対する労基署の立入調査が急激に増加していますが,今回のアンケート結果の内容をみると,今後も労基署の立入検査は確実に増え続けていくと確信しています。
当事務所としては,労基法の趣旨と学校実務におけるニーズをいかに調和し,よりよい労働環境を構築していくか,これからも日々研究を重ねていきたいと思います。

(文責 弁護士 沖山 延史)

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